「移入華人及朝鮮人労務者ノ取扱ニ関スル件」について



白鳥鈴音「久しぶりの資料集だねぇ♪」

上原都 「ええ。作者が妙に忙しかったりやる気がなかったりで放置してたけど、例によって、アジア歴史資料センターをさまよったときに見つけた『移入華人及朝鮮人労務者ノ取扱ニ関スル件』(レファレンスコードA03010239900)を取り上げるわ」

綿貫響密航朝鮮人取締の件で、史料の取扱いについて指摘批判を受けたことがきっかけなの?」

上原都「それで別件資料を探したついでに、なんとなくアジ歴をさまよいたくなって、適当なキーワードを入れて検索して見ているうちにこの史料に行き当たったのよ」

神楽「意外といい加減な動機だな」

白鳥鈴音「いい加減なのは今に始まったことじゃないって♪」

上原都「じゃ、本文にいくわよ。旧字は新字に、数字はアラビア数字にあらためたわ」


別紙外務大臣内務大臣厚生大臣大蔵大臣商工大臣請議移入華人及朝鮮人労務者の取扱に関する件

右閣議に供す

指令案
請議移入華人及朝鮮人労務者の取扱に関する件請議の通

此の件関係主任官
厚生書記官 飯島■

厚生省発計第19号
 移入華人及朝鮮人労務者の取扱に関する件
終戦に伴ふ移入華人及朝鮮人労務者の取扱に関し政府の方針決定の必要を認む 仍て別紙移入華人及朝鮮人労務者の取扱要領を提出す
右閣議を請ふ

昭和20年12月26日
 外務大臣 吉田茂
 内務大臣 堀切善次郎
 厚生大臣 芦田均
 大蔵大臣 子爵 渋沢敬三
 商工大臣 小笠原三九郎
内閣総理大臣 男爵 幣原喜重郎 殿

移入華人及朝鮮人労務者取扱要領
一、移入華人及朝鮮人労務者の管理は昭和20年12月10日以降帰国に至る迄必要に応じ政府に於て之を行ひ現地に於ては地方長官をして担当せしむるものとす
二、終戦後政府管理となる迄華人又は朝鮮人なるが故に已むを得ず事業主に於て負担せる休業手当其の他の損失に付ては実情調査の上政府に於て必要なる補償を考慮するものとす

理由書
終戦に伴ひ移入華人及朝鮮人労務者は帰国に至る迄一切就労せざるのみならず不当の要求、暴行脅迫等を行ひ事業主に於ては管理を継続するは不適当なる場合あるに依り之を政府に於て管理するの要あると終戦後華人又は朝鮮人なるが故に蒙れる事業主の損失に付ては国家補償の要あるとに依る











白鳥鈴音「今回も短いねぇ♪」

上原都「まず、表題だけど、大東亜戦争前・戦争中の日本には、労働力として朝鮮人や中国人が移入してきたわ」

綿貫響「合法的な渡航、徴用とか非合法な密航とか、いわゆる『強制連行』とかで来たのね」

上原都「ええ。でもここでは彼らが移入した原因については触れないわね。あくまでも日本国内にいた朝鮮人・中国人労務者の送還についてが本題だし、作者も突っ込んで触れる用意がないから」

神楽「で、戦争が終わって朝鮮・台湾は所有を放棄、支那大陸の占領地も当然放棄ということで、日本にいる朝鮮人・中国人は帰ることができるようになったということだな」

上原都「そういうこと。それで厚生省が彼ら労務者の取扱いについて、政府方針を閣議決定してくれってことで、要領案を提出したの」

神楽「その次には総理大臣とかいろんな大臣の名前が並んでいるなぁ」

綿貫響「かんじんの取扱い要領だけど、1では労務者の管理について昭和20年12月10日以降は政府の管理とするってあるけど、この文書の日付は12月26日になっているわね。どういうこと?」

上原都「え?それはね……」

綿貫響 白鳥鈴音 神楽「う、うん」

上原都「よくわかんない♪」

綿貫響 白鳥鈴音 神楽「おい!!」

上原都「普通、起案・決裁の日付が、案件の実施日より後の日付になることはありえないわよね。むろん案件について先行実施し、決裁は後で回すということがないとは言えないけど、その場合は起案・決裁日を遡らせて記入するという辻褄合わせをするはずだし」

神楽「ま、今ここでどうこう悩んでもあまり大した意味は無いんじゃないか?」

白鳥鈴音「お、いいこと言うねぇ。先に行きましょ」

綿貫響「じゃあさ、取扱い要領の2だけど、どうして『華人又は朝鮮人なるが故に已むを得ず事業主に於て負担せる休業手当其の他の損失』が発生するの?」

上原都「それはね、獄長日記のエントリーを読んでみて」

朝鮮人集団移入労務者の帰国(一)

白鳥鈴音「丸投げ♪丸投げ♪」

上原都「そのほうがわかりやすいでしょ」

綿貫響「休業手当の発生する理由は分かったけど、帰国するまでの間、いっさい働かないばかり『不当の要求、暴行脅迫等』を行っていたため、事業主では管理できなくなった。またそれについて事業主の被った損害については国家補償しましょうってあるわね」

神楽「おいおい、ひでー話じゃねーか。日本が敗戦したからって好き放題するのかよ」

白鳥鈴音「第三国人のおーぼーだー!」

上原都「ま、彼らにしてみれば転がり込んできた『解放』あるいは『光復』によって思いもよらぬ大逆転をとげたわけでしょ。そりゃ、これまでの憂さを晴らして『勝者』として振舞いたくもなるでしょ」

神楽「いや、あいつら『勝者』じゃないし。むしろ敗戦国家日本の構成分子じゃん」

上原都「ええ。厳密なカテゴライズでは『戦勝国』には属しないし、また朝鮮台湾の放棄によって『敗戦国』にも属しないわけね。そこで出てくるのが有名な『第三国人』って定義よ」

綿貫響「石原慎太郎東京都知事の発言で有名になったアレね」

白鳥鈴音「TBS!TBS!」

上原都「TBSは『韓国併合正当化発言』。そっちじゃなくて、共同通信や朝日新聞などの行なったほうよ。たしかにあれは報道機関としては最悪に近い所業よね。だけど『三国人』という用語を使ってしまったのはいいことじゃないわね」

神楽「作者は石原発言には反対なのか?」

上原都「発言の趣旨には賛同するわよ。不法入国した外国人、とくに中国・韓国からの密入国者が東京の治安悪化に影響していること自体は虚偽ではないし。ただ、中国人・韓国人をひとくくりに表現するさいに『三国人』という揚げ足を取られる用語を使ったことが評価できないのよ」

白鳥鈴音「『特ア』って言っておけばよかったんだね」

綿貫響「その言葉、当時はなかったわよ」

神楽「だけど、石原ってリアルタイムに『三国人の暴虐』を見聞している世代なんだろ。その体験から使ってしまったんじゃねーの」

上原都「そうかもしれないけどね、都知事として発言するにはあまりにも不用意な言葉だわ。事実に対して歯に衣着せず直言することはいいけど、言葉を選んで計算するのが政治家としては大切なことでしょ。
 脱線が続いたけど、この史料から分かることは、戦前戦中に移入した中国人・朝鮮人労務者が帰国するまでの間の取り扱いについて、個々の事業主から政府へ管理を移すということね」

綿貫響「そして、その理由として、彼らの『不当の要求、暴行脅迫等』があり、個々の事業主では管理ができないということがあげられていると」

上原都「彼らの『不当の要求、暴行脅迫等』があったと書かれているからといって、それが本当に存在したかは別であり、政府方針決定の理由として持ち出すためにでっちあげたり、実態以上に誇張されている可能性がある、なんて反論もできるかもしれないけどね」

神楽「そんなことは言えるのか?」

上原都「さぁ、どうかしら?閣議に上げる案件の理由として書かれている以上、全くのデッチアゲと考えることはできないし、その存在について政府担当者が肯定し得るような事態であったと考えたほうが蓋然性は高いでしょうね。
 ただ、これも例によって、作者はこの史料だけで『三国人の暴虐』の存在を決め付けるのは早計であり、他の史料等とつき合わせて読むべきものだと言っているわ。また、朝鮮人送還についての取扱いなどの経過が垣間見えるのがおもしろいとも言っているわね」

白鳥鈴音「やっぱり、地道な作業になるんだね。でもさ、戦後すぐの闇市などを舞台にした映画には三国人の横暴が描写されているよね」

上原都「そうね。たしかに描写されているわ。でもね、基本的に創作物である映画を証拠として前面に押し出すのは拙劣な手法なのよ」

神楽「そうなのか?」

上原都「くだんの映画は、証言や体験、資料を元ネタにしてシナリオをつくっているわけでしょ。それならその元ネタ群、つまり引用元にじかにあたって批判検討したうえで『証拠』とすべきよ。映画小説をそのままソースにするって、韓国人たちと同じじゃない?」

白鳥鈴音「『不滅の李舜臣』とか?」

綿貫響「あちらさんと同じレベルってのは勘弁願いたいわね。でも、史料の取扱いって専門的で難しいイメージがあるわ」

上原都「難しいといえば難しいわ。だけど大切なことだわよ。史料学について要領よくまとめられてかなり有益な記述があるので紹介しておくわ。エンコリでも日ごろからお世話になり、弊サイトからもリンクを張らせてもらっている『獄長日記』のエントリーからの抜粋引用よ」


意識より抜粋引用

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jaction/read.php?id=enjoyjapan_8&nid=804407

○歴史議論とは?

 史料や資料を根拠として歴史的事物に関する主張の妥当性を検討する事。


○史料と資料

史料:主に当事者や同時代人が記した文書記録。(但し、後代に編纂された書籍や遺物、絵画や写真等も含む)
資料:史料を根拠として構築された叙述物や図表。

史料に対してはそれがどの程度事実を反映しているかを検討する必要がある。
これを「史料批判」と呼び、歴史的象徴や叙述を行う際には、必須の事柄である。

だからと言って、全ての資料が充分にこれを行っているとは言えないし、必ずしもその主張が正しいとは限らない。
なぜなら、資料は特定の関心や要請に基づいて作成されるからである。
故に、必然的に情報の取捨選択が行われたり、筆者の価値観が混入する。
中には明らかな錯誤に基づくものや、意図的に読者を一定の結論に誘導するものさえある。


歴史議論がこれらの物の上に立脚している以上、それには一定の前提条件を満たす必要があるだろう。


○資料と歴史議論の前提

資料とは筆者の経験や思考を追体験するために存在する。
故に、資料には再現可能性を担保するために、出典、或いは根拠となる史料そのものが提示されていなければならない。
これがない資料は歴史議論における主張の根拠としての価値が極めて低い。
また、資料が筆者の思考の追体験である以上、これを根拠として何かの主張をする者は、この資料の記述を真とし、受け入れた理由、言い換えれば資料の主張を妥当として判断した理由を、論理的に相手に対して説明する責任がある。
この点に関して合意が無ければ、歴史議論は不毛なものにならざるを得ないし、議論そのものが不成立となるだろう。
私が評価するのは国籍を問わず、この点を満たしている論者であるし、私が軽蔑するのはこの点を満たさずして他の目的の為に邁進する者である。


http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jaction/read.php?id=enjoyjapan_8&nid=625348

史料学の基本事項。

一)文献資料の種類

 1.一次史料
   古文書 :特定の相手に対する意思表示を目的とした史料
   記録  :日記などの記録

 2.二次史料
   編纂物 :古文書等を元にして作られた記述
   文学作品:物語・詩等

ただし、何れの史料においても、その記載事項の事実関係について確認する作業、つまり史料批判が必要な事は言うまでもない。
また、これら史料から出来得る限り多くのinformationを取り出し、整理・検証をしてintelligence化するべく努力すべきである。
以上の作業を行う上で重要なのが文書学的知識である。

※但し、史料の等次が情報の正しさを必ずしも担保するとは限らない。
 極言すれば史料批判がなければ一次史料であっても信頼するに足りない。


二)文書学
 1.歴史学の補助学
 2.(文書学の自立を説く立場からすれば)文書史
 3.文書の整理・保存法の研究


三)文書学の範囲・観点
 1.伝来
 2.差出人と受取人
 3.発給の日付
 4.内容

これらの情報は史料の正確を規定し、主張の根拠としての有用性を担保する最も基礎的な作業である。

※文字を読む事=史料を読むことではない。


http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jaction/read.php?id=enjoyjapan_8&nid=630394

歴史が歴史になるまで

1.史料            →a)報道
   ↓
2.論文・調査報告・学会発表等 →b)報道
   ↓
3.教科書・小説等       →c)報道
   ↓
4.一般化

史家が主に扱う領域は ↓
歴史愛好者が扱う領域は、


綿貫響「これって、エンコリにおけるzeongさんの言説よね」

上原都「そうよ。いわば孫引きね。今回は資料が短かったし、この機会に紹介しておこうと思ってね」

白鳥鈴音「ひたすら史料のテキスト起こしをしている作者って、史料学的批判を行なうについてはけっこうダメな人なんじゃないのかなぁ?」

上原都「う゛……だけどね、『獄長』dreamtaleさんもおっしゃってたけど、コピペ等じゃなくて自力でテキスト起こしをしているとね、ただ目で追って読んだだけでは気づかなかったことがふと見えてきたり、他所でであった史料との関連が見えたりすることがあるのよ。そのときは嬉しいわよ」

綿貫響「いわゆる『写経』ね」

神楽「これも修行なんだなぁ…」


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