朝鮮出身兵取扱教育 2



都「前回にふれた『朝鮮出身兵取扱教育の参考資料送付に関する件陸軍一般へ通牒(レファレンスコードC01007778900)』に続いて、これもアジア歴史資料センター収録、来翰綴(陸密)昭和20年の『朝鮮出身兵の取扱指導刷新向上に関する件(レファレンスコードC01007867000)』を取上げるわね」

鈴音「へー、まだマニュアルがあったんだ」

響「ん?これって『陸密綴昭和20年 朝鮮出身兵の取扱指導刷新向上に関する件陸追加の件達牒(レファレンスコードC01007858800)』と同じものよね?」

都「ええ。じゃぁ、いつもどおり画像はいちばん最後にまとめてあげることにして、カタカナをひらがなに、旧字は新字にあらためて見ていくわね」


陸密第三〇八号

    朝鮮出身兵取扱指導刷新向上に関する件陸軍一般へ通牒

  昭和二十年一月二十六日         陸軍次官 柴山兼四郎

朝鮮出身兵の取扱に関しては屡次注意せられ各部隊亦留意せられある所にして困難なる事情存すべきも最近主として其の取扱指導不適切に起因し離隊逃亡頻発しあるのみならず特に某部隊に於ては朝鮮学徒志願兵数十名一団となりて不穏なる策動を敢てせんとしたる事件の発生を見たるは朝鮮人の活動を大いに期待すべき現戦局下極めて遺憾とす所なり而して朝鮮出身兵の取扱の適否は朝鮮人の皇民化具現に重大なる影響を及ぼしあるのみならず今後朝鮮人を軍内外に於て大いに活動せしむべき要ある秋軍は他に垂範すべき地位に在る外特に皇軍の統率、軍紀、団結等其の建制に及ぼす影響至大なるものあるを肝銘し幹部以下一視同仁の 聖旨を深く体し特に各級隊長は建軍の本義と軍隊統率の本旨に則り左記事項を留意の上速に之が取扱指導を刷新向上せられ度依命通牒す

神楽「『離隊逃亡頻発』って穏やかじゃねーなぁ」

鈴音「しかも『某部隊に於ては朝鮮学徒志願兵数十名一団となりて不穏なる策動を敢てせんとしたる事件の発生』だよー」

都「そうね。もっとも詳しい状況までは伏せられているようだから突っ込んで見られないけどね。作者が注目したのは『朝鮮出身兵の取扱の適否は朝鮮人の皇民化具現に重大なる影響を及ぼしある』ってところ」

響「どこがひっかかったの?」

都「単に朝鮮人を戦場に駆り出すなら皇民化なんて関係ないじゃない。西欧列強がやっていたように本国軍の構成要因としてではなく、植民地兵として動員すればいいだけでしょ」

響「でも、これっていわゆる『お題目』とか官僚的なもっともらしい理由付けじゃないの?」

都「たしかにその意味がないとはいえないわね。とりあえず先を見ていきましょう」

      左記

一 朝鮮出身兵に関連する統率服務の観念の向上
 朝鮮出身兵をして真に兵役制度施行の目的に即応せしめ大東亜戦争寄与に最大の貢献をなさしむべきは朝鮮出身兵を包含する部隊の重大職責にして決して些細事に非ざるを肝銘し各級部隊長の統率、将校以下の服務に於て根本観念を画期的に向上し万般の施策特に朝鮮出身兵の取扱を刷新するを要す

二 内鮮兵間の差別感の徹底的払拭
 朝鮮出身兵に対し一種特別の差別感を包蔵し之を表面化して或は朝鮮出身兵のみの内務班を特別に設け或は幹候採用に就き極端なる差別待遇をなすが如きは全く一視同仁の 聖旨に背き奉り軍隊統率の本旨に反するものなり而して差別感の根底をなすものは将校以下の朝鮮の民度の極めて低級なる点に関する認識の不十分なると旧来の感情的蔑視観特に自ら作為して差別視あるもの多し宜しく各級部隊長以下寛大なる抱擁力を以て部下を統率し特に内鮮兵間相互に於て信頼感を深厚ならしむる如く指導するの要あり
 之が為一時期朝鮮出身兵の背信行為を認むる等のことあるも敢て意とすることなく此の種過渡的事象を超越克服し真に一視同仁骨肉の至情を以て大乗的に処置せられ度
 尚差別感を払拭し得ず旧態依然たる者に対しては断乎たる処分に出ると共に叙上の趣旨に依り指導せられたる結果発生したる事件に対しては責任者の処分等をも当分の間寛恕するの要あり

鈴音「差別イクナイ!だね」

響「『各級部隊長以下寛大なる抱擁力を以て部下を統率し特に内鮮兵間相互に於て信頼感を深厚ならしむる如く指導するの要あり』って部隊長というより教師の仕事みたいねぇ…」

都「『之が為一時期朝鮮出身兵の背信行為を認むる等のことあるも敢て意とすることなく此の種過渡的事象を超越克服し真に一視同仁骨肉の至情を以て大乗的に処置せられ度』ってかなり寛大な感じがするけど、気のせいかしら」

神楽「寛大っつーより甘いって言わないか?」

三 国語不理解者に対する指導
 現在入隊しある朝鮮出身兵の国語理解率は僅かに三十%内外にして彼等の国語不理解に起因する労苦は真に同情に価するものありて離隊逃亡の最大原因は国語の不理解に存するの実情なり而して朝鮮人特に壮丁に対する国語の普及徹底に関しては別に緊急措置を要するものあるも今遽かに其の成果を期待し難きものあるを以て取敢へず各部隊に於ては朝鮮出身兵の国語能力向上に関し一層努力の要あり国語不理解者に対しては成るべく朝鮮の実情に通暁せる優良なる内地兵を附し一般教育実施間国語の教育を併せて実施する外内務班に於ても戦友相互に相扶け内鮮兄弟の実を発揮して国語能力の向上を図るを要す
 又朝鮮出身兵を収容する部隊の下級幹部の一部は余暇を利用して朝鮮語をも修習し内鮮一如の精神的団結を強化するの著意を必要とす

神楽「『国語理解率は僅かに三十%内外』って戦争できないじゃねーか」

響「そりゃぁ『国語不理解に起因する労苦は真に同情に価するもの』だわねぇ。『離隊逃亡の最大原因は国語の不理解に存するの実情』っての無理ないかも」

都「調査では昭和17年末の時点で、国語つまり日本語を解する者の総人口に対する割合は約22%、25歳以上の朝鮮人男子で国語を解する者の割合は33.2%程度だったみたいね。ネタ元は (-_-;)y-~~【再掲】悪辣な日帝の朝鮮文化抹殺計画の状況よ」

鈴音「じゃぁ、兵隊の訓練よりも国語教育をビシバシやるしかないよー」

都「ところが『国語不理解者に対しては成るべく朝鮮の実情に通暁せる優良なる内地兵を附し一般教育実施間国語の教育を併せて実施』、『内務班に於ても戦友相互に相扶け内鮮兄弟の実を発揮して国語能力の向上を図る』って具合に、スパルタではなく寧ろマンツーマンにも近い懇切丁寧な教育を指示しているのよ」

響「すぐに上官・古参兵のビンタが飛ぶ非人間的なまでに峻烈な日本陸軍っていうイメージが崩れるわね」

都「しかも下級幹部に対しても『又朝鮮出身兵を収容する部隊の下級幹部の一部は余暇を利用して朝鮮語をも修習し内鮮一如の精神的団結を強化するの著意を必要とす』、つまり幹部も朝鮮語を習って意思疎通と団結を図れなんて言っているのよ」

神楽「…それって本末転倒じゃないかなぁ。上官のほうが朝鮮語を学べってさ」

鈴音「なんだか、軍隊というより学校とか教育機関になっているみたいだね」

四 朝鮮の民情に適応する指導
 朝鮮の民情は自ら内地と差異の存するは明かにして之に適応する指導をなすは極めて肝要なり特に朝鮮の民度の極めて低級なるを認識し例へば衛生思想の不足等の如きは親心を以て指導すれば十分に内地兵の水準に達し得るものなるを認識し真に骨肉の至情を以て彼らを労り助けつつ教育指導するの要あり
又親に孝にして長上を尊敬する等の朝鮮古来の美風は剰す所なく活用し特に家庭との連繋を周密ならしむるの要あり反面国家観の認むべきもの少く個人の生死利害を極度に重視する等の精神的特質は指導上の参考として留意し濫りに死を強調して却つて反作用を招徠せざる等細心の注意を要するものあり
 又兵食の慣熟等に就ても当初は努めて朝鮮食を加味し漸を逐ふの労を惜しまざる等の注意を怠らざること肝要なり

響「この辺は前回の通達にも書かれているわね」

鈴音「やっぱり朝鮮食をつけるんだね♪」

お約束のアレ

『朝鮮軍司令部 1910-1945』(古野直也 国書刊行会)

神楽寧覇総督府日報でも突っ込まれているけどさ、まるで宗教上のタブーみたいだよなぁ」

鈴音「唐辛子を食べないと死んじゃうんだよ、きっと」

五 要注意兵の取扱の向上
 朝鮮に於ける戸籍規定の不徹底と民度の低級なるとに起因し朝鮮出身兵の身上の調査には困難なる事情存すべきも兵の指導上極めて重要なるを以て悪質不良兵の選別を厳にし特に思想的要注意兵の身上を確実に把握し以て之等に対する指導を適切ならしむることは朝鮮出身兵に於ては特に重要なり
 又非違を認めたる場合機を失せず峻厳なる処分を断行するは朝鮮人の通有性たる事大思想、附和雷同性等に鑑み極めて肝要事なり

都「この辺も前回と共通ね。『非違を認めたる場合機を失せず峻厳なる処分を断行するは朝鮮人の通有性たる事大思想、附和雷同性等に鑑み極めて肝要事なり』ってなんだか犬に対する躾みたいな気もするけど」

六 朝鮮出身優良幹部の活用
 軍内外に於て朝鮮出身優良兵等を活用するは徴兵制の施行延いては朝鮮人の皇民化具現に極めて有效な施策なるのみならず軍内に於ても朝鮮出身兵の指導に有利なるを以て積極的に之を活用するの著意を必要とす而して軍内に活用する場合に於ては朝鮮人のみの横断的結束を招徠せざることに注意すると共に内鮮兵間に民族的感情に基く摩擦を惹起せざる如く考慮するの要あり
 之が為朝鮮出身兵幹部候補生及下士官候補者任官後に於ける内地出身兵の此等上官に対する服従観念に就ては細心の教育を要するものあり

響「優良幹部の活用か…これも前回と同じね。『軍内に於ても朝鮮出身兵の指導に有利なる』ってのはよく理解できるけど、『朝鮮人の皇民化具現に極めて有效な施策』ってのがよくわからないわ」

都「それは軍事的な理由じゃないからじゃないかしら。この通達を通して読むと、正直、本気で戦力として用いるつもりで徴兵制を適用したのかどうか首をひねるわね」

神楽「それで冒頭での都の発言につながるわけだ」

都「ええ。まるで軍事上の理由からではなく、政治上の理由から徴兵制を適用したかのような印象があるのよ」

鈴音「戦争のためじゃなく皇民化のために徴兵して軍隊に入れたってことナノ?……あれ?なんか最近も徴兵制について似たような話を聞いたような気がするけど…」

都「一例をあげれば、2007年11月に東国原英夫宮崎県知事が、若者に規律を教育する機関が必要として、徴兵制による自衛隊への入隊を喩えに出した話とかね」

響「なるほど。軍隊を規律とか道徳とかを教育する教育機関としたのね。でもそれって職業軍人にとってはいい迷惑よね。軍隊の目的は国防であって教育じゃないんだし」

神楽「そういや、ちょっと前には徴兵制のある国家の青年を『軍隊で鍛えられてたくましくなる』なんて言っている人がいたよなぁ」

都「…『韓流ブーム』中に、韓国の若い男性を称揚した連中のことでしょ…結果的に軍隊で心身を鍛えられたということはあっても、心身を鍛えるために軍隊があるわけじゃないからね。この辺を本末転倒して徴兵制の利点とするバカ認識って多いわよね」

神楽「作者って徴兵制復活には反対なのか?」

都「ええ。現代戦においてはメリットが見出せないからってのが理由よ。たとえ少数でもハイテク兵器に習熟したプロの軍人をそろえておく方が効果的且つ効率的ってこと。興味のある人は、JSF氏の徴兵制 復活?を読むとおもしろいかもね」

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