戦後朝鮮人の送還について 3



上原都「前回の最後で予告したとおり、今回は1945年中の朝鮮人送還に関するSCAPINから見てゆくわ。まず、第1回で少しふれた話だけど、計画輸送ではなく「自主的」に帰還しようとした朝鮮人たちについての話よ」

SCAPIN254 Repatriation Reception Centers 地方引揚援護局

神楽「このSCAPINも第1、2回でふれたよな?」

上原都「ええそうよ。前は地方引揚援護局の件で見たけど、今回はパラグラフの3を見て」

綿貫響「えーっと、『3.特定の日本船は、下関、本州北部沿岸と朝鮮の港の間で未許可の送還・引揚を行なっている。この交通は朝鮮と日本に対して深刻な衛生上の脅威をつくりだす。日本政府によって、送還に携わっている船を日本商船管理局に認可されるスケジュール・港に制限するため必要な処置が取られるよう指示する』ね。許可無く朝鮮への送還をやっていた船があるってことね」

白鳥鈴音「運び屋とか白タクってやつだね」

上原都「そういうことね。で、こういう非正規な輸送は当然ながら検疫を経ず防疫上の観点からしてもよくないから取り締まれってこと。それに往々にして密輸や犯罪者の移動に使用されるから治安上から見てもよくないしね」

神楽「そうか。きちんとした税関や検疫所を通らないもんな」

上原都「次は計画輸送に従って送還される朝鮮人・中国人たちについての話よ。まずパラグラフ2を見て」

SCAPIN383 Cotorl of Non-Japanese Being Repatriated From Japan 日本から送還される非日本人の取締

綿貫響「2ね。『2.地元の日本人官公吏は送還者の管理のために可能なあらゆる合法的手段を利用すること』…なんだか物騒な条項に見えるわね」

神楽「だけどさ、ごく当たり前のことだと思うぜ」

綿貫響「ま、まぁ法治国家としては当然のことだけど、当然過ぎてわざわざ書くようなこととも思えないわよ」

上原都「当時の日本はGHQの統治下よ。日本政府宛の指令にそれをわざわざ明記しておく必要はあると思うわ。で、問題は次のパラグラフ3」

綿貫響「『3.万一彼らの努力が失敗した場合、地元の日本人官公吏は地元の米軍当局者に管理の維持を要求することを許可される』って、こっちのほうが物騒よ!」

白鳥鈴音「暴動発生!米軍緊急出動!暴徒を鎮圧せよ!ってやつだー♪」

神楽「おいおい、えらく極端だな」

上原都「最悪の場合、そういう事態も想定していたとみていいでしょうね。ま、送還希望者が殺到したために混乱が生じ、GHQは米軍出動も選択肢に入れてその対策を指示した、という程度に読んでおきましょ」

綿貫響「あくまで『深読み』は避けるのね」

上原都「ええ。『書いてあることを読みとれず、書いてもいないことが読み取れる』という『機能性文盲+被害妄想』にはなりたくないし」

白鳥鈴音「それなんて李泰鎮?」

綿貫響「おっと、それなら金文吉もよ」

神楽「ちょっと待ったー!慎敏呂睨困譴討發蕕辰舛禳い襪次

上原都「…何なの、この変則ボンクラーズは……次は、送還時に朝鮮人は交通費を払わなくてもいいって話よ」

SCAPIN410 Supplies, Transportation and Facilities for Repatriates 送還者への供与品、輸送、施設

上原都「パラグラフ2cを見て」

綿貫響「えっと、『Rail transportation will be provided without cost to authorized repatriates moving to repatriation centers under Japanese planned evacuation.』ね。訳は『鉄道輸送は、日本政府の計画した送還に従って引揚援護局への移動を許可された送還者の負担無しで提供されること』か」

神楽「要するに、送還者は交通費無料ってわけだ」

上原都「ええ。あくまでも日本政府の送還計画に従っての移動についてということだけどね。すると、これ以前に乗船港へ移動した人々が自己負担した交通費を払い戻すニダ!という連中が出てくるわけよ」

白鳥鈴音「へー、でも、お金が返ってくるかもしれないなら当然言うわよね」

上原都「そうね。そこで日本政府は以下のCLO文書でGHQに確認しようとするの。文中の「Federation of Koreans in Japan」は「在日本朝鮮人連盟」を指していると見ていいでしょうね。で、その朝連が「8月15日から12月11日の間に日本の計画で引揚援護局に移動した朝鮮人の払った鉄道運賃を払い戻せ」という要求を運輸省に提出したようね」

CLO313 朝鮮人が負担した鉄道運賃

上原都「日本政府の確認したいことは『上述の覚書は1945年8月15日に遡及して有効であるかどうかを明確にすることを要請する』『そうであれば、朝鮮人の利益を代表する法的立場がない朝鮮人の組織の中の一つの組織でしかない、いわゆる「在日本朝鮮人連盟」が返済を受ける許可があるかどうか、朝鮮人送還者の日本人雇用主によって鉄道運賃が支払われた場合、払戻しを朝鮮人にするべきかどうか』ということね」

神楽「え?実際に運賃を払った朝鮮人本人に払い戻されるのが当然だろ。彼らが払戻しを要求したんじゃないのか?」

綿貫響「本人はすでに朝鮮に帰っているでしょ。訴えを起こす以前に、払戻しの話すら知らないんじゃない?」

上原都「だから『これ以前に乗船港へ移動した人々が自己負担した交通費を払い戻すニダ!という連中ヽヽ』という言い方をしたの」

神楽「なるほどなぁ…日本人雇用者によって朝鮮人送還者の鉄道運賃が支払われたってのはどういうことだ?」

上原都「雇い主(事業主)、つまり日本企業が送還者の交通費を肩代わりして支払ったってことね。徴用などで朝鮮人労働者を抱えていた企業は終戦後すぐに彼らの職務を解いて本国送還に着手したから、そういった問題も起きるのよ。その辺を指して「強制連行や労働状況の実態が連合軍に知られると都合が悪いと考えて迅速に送り返した」なんて言説はよく聞くわね」

白鳥鈴音「それで、GHQはどうしたの?」

上原都「SCAPIN685で回答したわ」

SCAPIN685 Railway Fares Charged to Koreans 朝鮮人が負担した鉄道運賃

綿貫響「まず『2.The provisions of paragraph 2c of reference 1b above are retroactive to 15 October 1945.』、SCAPIN410のパラグラフ2cの条項「Rail transportation will be provided without cost to authorized repatriates moving to repatriation centers under Japanese planned evacuation.」は45年10月15日に遡及するということね」

白鳥鈴音「10月15日って中途半端だね。どういうことなのかな?」

上原都「そうね。作者も明確な答えは見出せてないけど、朝鮮人が送還を求めて博多などに殺到したことにより生じた混乱で円滑なフェリー輸送ができなくなり、輸送の中止とそれらの地域への朝鮮人の立ち入りを制限するGHQの電話指令が行なわれたのが10月13日で、GHQからその指令を確認する無電がされたのが15日でしょ。
 だから15日以前に行なわれた移動は、日本政府の計画に従ったものではなく自発的なものであり、払戻しの対象にはならないという解釈なのかな?と考えてはいるんだけど」

神楽「いちおうの辻褄は合ってはいるけどさ」

綿貫響「ま、あくまでも作者の推測だからね。このあたりでとどめておきましょ」

上原都「そして、『3.Where refunds are made they should be made to individuals unless an organization has legal proof that it is acting as the agent for such individuals under a proper power of attorney.』、返済を受ける場合、その組織が正当な委任状のもとに個人の代理人として行動しているという法的証明を持たない限り、個人に支払えと」

白鳥鈴音「すでに朝鮮に帰った人が、朝連に対して法的に正当な委任状を発行できるわけないよね?ようするに朝連には払うなってことかなぁ?」

綿貫響「で、最後は『4.The matter of refunds to employers for fares paid in behalf of Korean employes is a matter for settlement between the Imperial Japanese Government and the employers concerned.』、朝鮮人従業員に支払われた運賃についての雇用者への返済問題は、日本政府と関係雇用者の間で解決する問題である、か」

神楽「日本政府と企業の間で解決しろってことだな」

白鳥鈴音「丸投げバンザーイ!!」


綿貫響「おいおい…あ、交通費じゃないけど、日本側の史料で朝鮮人労務者とお金について触れているのが、以前取り上げた『移入華人及朝鮮人労務者の取扱に関する件』なのね」

神楽「あ!雇用者が負担した休業手当を国家補償するって話だったな」

二、終戦後政府管理となる迄華人又は朝鮮人なるが故に已むを得ず事業主に於て負担せる休業手当其の他の損失に付ては実情調査の上政府に於て必要なる補償を考慮するものとす

上原都「ええ。『休業手当其の他』とあるから、ここに交通費も含まれている可能性もないとはいえないけど。このへんについてはおもしろい資料があるのよ」

 朝連のとつた広範囲の非合法手段、法律無視のやり方は、その活動資金の賄ない方に現れている。もつとも重要な一財源は,朝鮮人引揚げであることがわかつた。総司令部が引揚げを管理する以前には,引揚者は自分達の汽車賃を支払つていた。鉄道運賃が無料になり,この無料規定が1945年10月15日にさかのぼつて実施されたとき,朝連は日本政府に払いもどしを要求して,明らかに成功した。総司令部は,これがため,つぎのように声明せざるを得なかつた。「払いもどしを行なうときは,各個人に支払わねばならない。しかし,各個人が引揚げてしまつているから,ある団体が正当な代理権をもつてそうした個人の代理者として行動しているという合法的証拠がなければ,これは明らかに不可能な要求である」(35)。さらに重要な財源は引揚者自身からもたらされた。朝連は,多数の引揚者に勧めて銀行預金帳・郵便預金通帳を朝連に預けさせた。朝連は大蔵省との直接交渉によつてこれらの預金を引き出すことができた。それは総司令部の命令で厳重な制限の枠に入つていたものであるが,1946年1月から4月の間に1億円以上が引きだされた。
 朝連のいま一つのドル箱は,朝鮮人の元日本人雇傭主に対する数多い請求権であつた。総司令部の指令は,日本軍隊またはその機関や,日本の会社に勤務し雇傭されていた朝鮮人に対する差別的取扱いを禁止していた。これを楯にして,朝連は朝鮮人労働者を雇つていた日本人会社とつぎつぎに交渉した。会社が支払いに応じるところでは,朝連は個人にかわつて古い賃金・別居手当・死亡手当・傷害手当などを受けとつた。会社が朝連を法的権限のある代理人と認めないときは,強制手段に訴え,これがたびたび功を奏した。しかも,被傭者は,たいてい朝鮮に帰つていたので,こうしてとつたものは,大体朝連の金庫に入つた。

*(35)は注釈35:SCAPIN685を指す

「日本における朝鮮少数民族 1904年〜1950年」(復刻版) エドワード・W・ワグナー 龍渓書舎


 在日朝鮮人社会を代表していた朝連は、旧朝鮮総督府の管轄下にあった日本各地の建物や財産を没収したり、帰国朝鮮人が朝連に保管を依頼して残していった郵便貯金、国債などについて、大蔵省と交渉し資金を引き出したり、強制連行者を使用していた企業の未払い賃金を要求し、かなりの金額の支払いを受けたりした。しかし、それが当事者たちに渡されたかどうかは不明である。ほとんどは、朝連の活動資金として使われたと推測されている。

「在日コリアン百年史」金賛汀 三五館


上原都「ワグナーは当時GHQに勤務して実際に内地在住朝鮮人の送還・在朝鮮日本人の引揚に従事していたの。金賛汀は1937年生まれの在日朝鮮人でけっこう多くの著書があるわ。ワグナーは朝連の送還への介入行動などを送還の妨害ととらえているし、金はほんらい北系の在日朝鮮人だけど、ここ10数年は北朝鮮や総連に対して批判的な姿勢をとっているから、その点は割り引かなきゃいけないかもね」

綿貫響「…これってさぁ、横領って言わない?」

白鳥鈴音「響、こんなのかわいいもんだよー。ハーグ密使の1人李瑋 鐘の事件に比べればさー」

神楽「おいおい、感覚がずれてるぞ…だけどたしかに個人の遊興に使ってない分マシに見えてしまうけど…」

上原都「話を元に戻すと、軍人労務者優先の計画輸送状況について、前回も取り上げた大阪府知事の事務引継書がふれているの。必要な部分だけ再掲するわ」

一、朝鮮人計画輸送に関する件
  10月5日以降計画輸送に依り集団移入労務者土建事業場従事者を優先的に帰国せしめ概ねこれを完了し現在は一般在住者を輸送中なり 12月以前の当府の割当は1日2百名1月中1日3百名なるも乗船地其他の都合に依り屡々輸送中止せられたるを以て1月26日迄に82回 13917名を輸送せるに止まりたるも2月以降は漸時輸送力増大せるを以て大阪鉄道管理局管内2府7県の1ヶ月間輸送割当36,000名中 当府割当は 13,000名となれり尚帰鮮希望者は現在約75,000名と推定せらるゝも気候荷物輸送及朝鮮の国内事情等より速急に帰国を希望する者減少し、状況の好転を待ちて帰国せんとするの傾向あり 計画に依る集団的輸送完了の時期は6月頃と推定せらる


白鳥鈴音「完了したって書いてあるから、順調に進んだみたいだね。で、一般在住者の送還中なんだ」

上原都「そうね。第1回で見たように、優先順位が1位の復員軍人、2位の労務者の送還は終了したしね。なお、CLO349 朝鮮人の送還SCAPIN295 Repatriation of Non-Japanese from Japan 日本からの非日本人の送還のパラグラフ5でも優先順位は決められているわね」

CLO349
4.Those Koreans are to be repatriated in the following order:
 a.Demobilized sodiers.
 b.Laborers who came in groups.
 c.Other resident Koreans.

4.それらの朝鮮人は次の順番で送還されることになっている。
  a.復員軍人
  b.集団移入労務者
  c.その他在住朝鮮人

SCAPIN295
5.The Japanese Ministry of Welfare will be guided by the following in preparing plans for the flow of repatriates to Reception Centers.
  a.Koreans will be cleared from in the following order:
   (1)Moji - Shimonoseki - Hakata Area.
   (2)Osaka - Kobe Area.
   (3)Remainder of Japan.
  b.Within the areas mentioned in paragraph 5a, above, priority for Koreans will be given, in order to: demobilized soldiers, former forced laborers and other Koreans.

5.厚生省は以下の計画によって地方引揚援護局に向かう送還者の送出計画の準備を指示される
 a.朝鮮人は以下の順序で一掃される
  (1)門司・下関・博多地域
  (2)大阪・神戸地域
  (3)残りの日本
 b.パラグラフ5aで言及される地域の中で、朝鮮人は復員軍人、元強制労働者そして他の朝鮮人の順で優先権を与えられる

神楽「地域的にも大阪の優先順位は高いんだなぁ」

白鳥鈴音「SCAPINじゃ『former forced laborers:元強制労働者』って書いているけど、CLOじゃ『Laborers who came in groups:集団移入労務者』って書いているよね。どういうこと?」

上原都「とらえ方の違いじゃないかしら。官斡旋やら徴用やらでやってきた朝鮮人労務者を、GHQは強制的に労務に従事させられたものとしただけじゃないかな。GHQも日本政府も互いの用語にクレームをつけた形跡もないし、ここの用語は、いわゆる『強制連行』に直接関係してくるようなものにはならないと考えるわ……作者が後から発見した資料だけど、1946年2月2日付の朝日新聞(大阪最終版)には『朝鮮人の自由帰国認む』という記事があったわ」

朝鮮人の自由帰国認む
内地在住の朝鮮人で帰還希望のものは従来計画輸送以外には自由帰還出来なかつたが、二月一日から船に余裕のある場合に限り自由乗船できることとなつたが
 居住地の市区町村役場へ申出て帰還証明書の交付を受けた上最寄りの駅で乗車日指定をうけ指定乗船地に集合することとなつてゐる


上原都「この記事で言っている『計画輸送』は復員軍人や集団移入労務者たちの優先輸送を指しているから留意してね。これだけじゃなくて、GHQ関係の記述や森田芳夫あるいは金英達のような研究家の著作それぞれで『計画送還』『自由帰国』などの用語が指す実態がバラバラだから困るのよねぇ」

綿貫響「たしか45年12月末に送還輸送の中止指令が出てたはずだけど、どうなったの?」

SCAPIN518 Suspension Repatriation of Koreans 朝鮮人送還の中止

綿貫響「停止の理由や原因は書いてないんだけど」

上原都「そうね。SCAPINには書いてないので、GHQの月報『Summation of non-military activities in Japan 3』(45年12月分)の朝鮮の部を調べてみるわ」

Evacuation of Repatriates

40.Repatriation of Koreans was temporarily suspended on 31 December. It was feared that the political situation might result in a general strike and a delay in transportation which would overcrowd refugee reception centers.

12月31日、朝鮮人の送還は一時的に停止された。ゼネストを引き起こすかもしれない政治情勢と、引揚援護局を混雑させる輸送の遅れをおそれたためである。


神楽「ストライキかぁ」

白鳥鈴音「でもさ、送還輸送は年明けすぐに再開されているよ」

SCAPIN544 Removal of Suspension on Repatriation of Koreans 朝鮮人送還停止の解除

上原都「そうね。無事に再開されているわね。で、引継書にあるように、この1月までは送還がほぼ順調に進んでいたんだけど、徐々に送還者が減ってゆくの」

綿貫響「気候とか荷物とか朝鮮の国内事情とかのせいで急な帰還を見合わせるようになっていると書いているわね」

送還者の推移

合計 中国人 台湾人 朝鮮人 太平洋地域出身者 琉球人 その他
1945 11 417,001 11,399   405,602      
  12 237,522 19,007 3,464 214,617   434  
1946 1 75,935 277 4,055 66,765   4,768 70
  2 120,590 13 14,634 96,610   9,269 64
  3 63,768 173 1,939 58,903   2,753  
出典:History of the nonmilitary activities of the occupation of Japan 1945-1951 vol.16

上原都「終戦直後から10月の間に帰国した朝鮮人は正確には数えようがないけどね…送還者の減少をうかがえるものとしてこんなSCAPINがあるわ」

SCAPIN600 Repatriation of Non-Japanese from Japan 日本からの非日本人の送還

綿貫響「『2.GHQは朝鮮人、台湾人そして琉球人の送出に指定された地方引揚援護局が参照のパラグラフ1aで指示された送出送還者で満たされていないことを知った。その結果、送還者送出船舶は収容量どおりに満載することなく出航している』つまり、送還船舶が空席だらけで出航するようになったのね」

神楽「なるほど。それで日本政府に『この状態を修正するため即座に処置を取り、引揚援護局を参照のパラグラフ1aで指定された収容量の送出送還者で満たすこと』って指示を出すんだな」

上原都「そういうことね。で、一般在住朝鮮人の送還が主体になったことと関係あるんでしょうけど、目的地別に割り振って乗船させることを指示するSCAPINも出たわ」

SCAPIN726 Repatriation of Koreans 朝鮮人の送還

綿貫響「目的地が慶尚南北道・忠清北道なら仙崎・博多・函館。舞鶴で乗船して釜山に上陸、全羅南北道・京畿道・江原道・忠清南道なら佐世保で乗船して群山・木浦・仁川に上陸ってのが原則ね」

白鳥鈴音「けっこう細かいよね」

上原都「そうそう、一般人ではあるけどシャバにいない人間、ようするに服役中の囚人の送還についての指示もこのころに出ているわ」

SCAPIN729 Repatriation of Korean Prisoners 朝鮮人受刑者の送還

綿貫響「『日本政府は、朝鮮人受刑者が刑期を満了して釈放されるまで彼らを送還しない。これは日本政府の判決の差し戻しや量刑の軽減についての権利を侵害するものとしては解釈されない』ようするに、刑期が満了するまでは送還するなってことでしょ?」

上原都「そういうことね。ただ、日本政府がその受刑者に関して判決の差し戻しや、刑期短縮のように量刑を軽減するのはかまわないと」

白鳥鈴音「じゃぁさ、「お前は刑期が1年残っているけど、軽減して残り3日にしてやろう。さぁ朝鮮に帰りなさい」ってやってもいいんだね♪これで全国の刑務所から朝鮮人を出して送還できるよ♪」

綿貫響「り、理屈上は可能といえば可能だけど…」

 総司令部の一指令は,刑期を服し終わり,正式に釈放出所を許されるまでは,日本政府が朝鮮人受刑者の引揚げを行なうことを禁じたが,これは,「当該判決を免除したり,軽減する日本政府固有の特権をいかなる意味においても侵害するものと解さるべきではない」と付加していた(53)。総司令部の意向をまげて,日本政府は,これを引揚げの条件として判決を赦免しようとする方策に利用した。

*(53)は注釈53:SCAPIN729を指す

「日本における朝鮮少数民族 1904年〜1950年」(復刻版) エドワード・W・ワグナー 龍渓書舎


上原都「ワグナーはそう書いているわね。もっとも、当時の司法関係の記録に直接あたって実例を検証していかなきゃなんとも言えないけど」

神楽「それにさ、こんな拡大解釈を容易にさせるなんて、GHQにしては大きな手抜かりじゃねー?なんか怪しいぜ」

白鳥鈴音「おおっ!実は日本政府とGHQの共同謀議による朝鮮人追放政策だったのだー!」

綿貫響「な、なんだってー!!……ってふざけすぎでしょ。話を戻してよ」

上原都「オッケー。一般在住朝鮮人の帰国の減少もあって、2月17日、GHQはSCAPIN746を発して内地在住の朝鮮人・中国人・台湾人に送還希望の有無について登録させるよう指令を出すの」

SCAPIN746 Registration of Koreans, Chinese, Ryukyuans and Formosans 朝鮮人、中国人、琉球人及び台湾人の登録

上原都「それを受けて日本政府が出した登録令は中野文庫さんにあるけど、官報からテキストと画像を持ってきたわ」

 厚生
 内務省令第一号
 司法

昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ発する命令に関する件に基く朝鮮人、中華民国人、本島人及本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者登録令を左の通定む

 昭和二十一年三月十三日
            厚生大臣 芦田  均
            内務大臣 三土 忠造
            司法大臣 岩田 宙造

   朝鮮人、中華民国人、本島人及本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者登録令

第一条 朝鮮人、中華民国人、本島人及本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者の帰還希望の有無を調査する為登録を実施す

第二条 登録は昭和二十一年三月十八日午前零時の現在に依り同時期に於て内地(特別の事情ある地域にして厚生大臣の指定するものを除く以下同じ)に現在する者に付之を行ふ
前項の時期前に内地の港湾を発し途中寄港せずして同項の時期後二日以内に始めて内地の港湾に入りたる者は同項の時期に内地に現在したる者と看做す

第三条 登録は左の各号の事項に付之を行ふ
 一 氏名
 二 年齢(数へ年)
 三 男女の別
 四 本籍地
 五 住所
 六 職業
 七 帰還希望の有無
 八 帰還を希望するときは其の目的地

第四条 世帯主は其の世帯に現在する第二条第一項に規定する者に付第三条各号の事項を別に定むる申告票用紙に記入し府県知事の定むる期日迄に市町村長又は別に定むる登録調査員に提出することに依り申告すベし
世帯に於て世帯主不在なるときは事実上之を管理する者又は登録調査員の指定したる者を以て世帯主と看做す
第二条の時期に汽車、電車、其の他世帯なき場所に現在したる者及聯合国軍の管理する建物若は地域又は中華民国人以外の聯合国人の世帯に偶現在したる者は同条の時期後始めて到着したる世帯に現在したる者と看做す
本令に於て世帯とは住居及家計を共にする者を謂ひ一人にして住居を有し家計を立つる者亦一世帯とす家計を共にするも別に住居を有する者又は住居を共にするも別に家計を立つる者は別の世帯とす其の一人なる場合亦同じ
寄宿舎、病院、旅館、下宿屋、合宿所の場屋又は船舶に在る者にして其の家計を共にせざる場合と雖も一場屋又は一船舶毎に一世帯に準ず

第五条 市町村長は第四条第一項の規定に依り提出せる申告票を朝鮮人、中華民国人、本島人及本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者の各別に編綴し登録簿を作成すベし

第六条 市町村長は前条の登録簿に依り府県知事に(府県支庁長の管轄区域内の町村長は府県支庁長を経て)其の定むる期日迄に左の事項を報告すベし
 一 朝鮮人、中華民国人、本島人及本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者各別総数
 二 朝鮮人、中華民国人、本島人及本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者各別帰還希望者数(朝鮮人帰還希望者に付ては帰還目的地の北緯三十八度線に依る南北朝鮮別及其の道別、中華民国人帰還希望者に付ては帰還目的地の華北、華中、華南別、本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者に付ては帰還目的地の各島別)
府県知事前項の報告を受理したるときは之を速に取纏め厚生大臣に報告すベし

第七条 天災事変其の他已むを得ざる事由に因り第二条第一項の規定に依り難き場合に於ては府県知事は厚生大臣の定むる所に依り其の認可を経て区域を限り別段の定を為すことを得

第八条 左の各号の一に該当する者は六月以下の懲役若は禁錮又は千円以下の罰金に処す
 一 第四条の規定に違反し申告を為さず又は虚偽の申告を為したる者
 二 第四条の規定に依る申告を妨げたる者
 三 登録調査員の事務執行を妨げたる者

第九条 本令中市町村又は市町村長若は町村長に関する規定は東京都の区の存する地域並に市制第六条及市制第八十二条第三項の市に在りては区又は区長に、府県支庁長に関する規定は市制第六条及市制第八十二条第三項の市に在りては市長に之を適用し府県とあるは東京都及北海道を、府県知事とあるは東京都長官及北海道庁長官を、府県支庁長とあるは東京都支庁長及北海道庁支庁長を、市町村とあり又は市町村長若は町村長とあるは各々之に準ずベきものを含む

  附 則
本令は公布の日より之を施行す



綿貫響「これは1946年3月13日に公布されて即日施行されたようね」

上原都「ええ。これと同時に、第2条の『特別の事情ある地域にして厚生大臣の指定するもの』を規定する厚生省告示第三十三号、調査票や申告票の様式などを規定した厚生省・内務省告示第一号が出されるのよ」



神楽「調査票の様式もきちんと規定されるのかぁ」

白鳥鈴音「細かいんだねぇー」

上原都「大阪府ではこの調査のために予算を組んだの」

内務部長(印) 議事課長(印)(印) 主担(印)
   伺
  予算追加要求査定
本案査定御決裁後は次回参事会に提案附議相成可然哉
 件名 少年救護費外四件 要求課 厚生課 (主担者 井上属)
    援 護 費         電話庁内 公衆 警察  番

 一金 788,450 円  厚生課要求額
 一金 776,645 円  議事課査定額

 右充当財源
摘要 主務課要求額 議事課査定額 査定意見
少年救護費 12,300 12,300 本年2月1日よりの援護委託費1人1日60銭を1円50銭に増額せる為予算不足に依る
朝鮮人等登録諸費 37,000 25,000 国庫補助のみにて実施方主務課と打合済(全額国庫補助)
台湾省民生活援護費 679,150 679,150 (全額国庫補助)
授産施設費補助 50,000 50,000 (全額国庫補助)
戦災者救助事務費 10,000 10,000 (全額国庫補助)


厚労第371号
   昭和21年3月22日
         教育民生部長
 内務部長殿

   昭和20年度予算追加に関する件
標記の件別紙予算追加案の通■■に付の■御取計相成


一、少年救護費     12,300円
  (省略)

二、朝鮮人等登録諸費  25,00037,000
   理由
  朝鮮人等の送還を活溌ならしむる為連合軍司令部の厚意的指令に基き本年三月内務厚生司法省令第一号を以て朝鮮人等の登録令公布実施せられ之が経費として25,000円国庫補助交付せらるゝこととなりたるも要登録人員約15万人調査員4千人を要する大調査にして不足を生ずべきに付府費12,000円を附加し本調査の完璧を期せんとす
   内訳
種目 金額 備考
印刷費 12,500 申告書準備調査書等印刷代
通信運搬費 1,500  
雑費 3,000 広告料2,000円 諸雑費1,000円
調査員手当 8,000
20,000
調査員4,000人 1人当52円
25,000
37,000
 

三、台湾省民生括援護費 679,150円
  (以下省略)





綿貫響「国庫補助に加えて府の予算も追加するつもりだったのね」

上原都「そうね。この書類の最後に調査の国庫補助について厚生省社会局長発大阪府知事宛の電報の写しが書かれているわ」


神楽「でも、査定の結果、国庫補助だけの支出になったんだな」

上原都「ええ。他の支出と同じように国庫補助のみでの実施になったわ。減額査定の理由は本史料に書かれているように、調査員手当を1人あたり5円から2円に設定し直したからね。登録令についての新聞広告も入手したからあげておくわね」

1946年3月14日朝日新聞(大阪最終版)・毎日新聞(大阪版)に出された広告
朝鮮人、中華民国人、台湾人、及北緯三十度以南の鹿児島県と沖縄県に本籍を有する方は三月十八日午前零時現在を以て市区町村へ帰還希望の有無を漏れなく正しく申告をせねばなりません、申告を怠つた者は特権を喪失するばかりでなく処罰されますから御注意下さい
 詳細は町会、部落会を通じてお知らせします

大阪府



1946年3月14日読売報知新聞(東京版)・15日朝日新聞(大阪最終版)・16日毎日新聞(大阪版)に出された広告
帰還登録
朝鮮人   の登録
中華民国人  
台湾省民  
鹿児島県人 (本籍が北緯三十度以南の者)
沖縄県人  
連合軍最高司令部の指令により帰国希望の有無を調査する為に三月十八日午前零時現在に於て登録を実施することゝなりましたから左記事項御参照の上申告して下さい
  ◎事項 { イ、氏名 ロ、年齢 ハ、性別 ニ、本籍地 ホ、現住所 ヘ、職業 ト、帰還希望の有無 チ、帰還を希望するときは其の目的地
  ◎手続 { 登録は各世帯主がしなければなりません
世帯主は市町村の長又は登録調査員から申告票用紙を受取り之に右の事項を記入して市町村長又は登録調査員へ提出して下さい
  注意 此の登録をしなかつたり、不正の登録をする人は処罰されます、帰還を希望した人で日本政府の指示に従つて帰還しない場合は、帰還に関する特典を失ひます

厚生省・内務省・司法省


神楽「それで、登録結果はどうなんだ?」

上原都「登録結果は、CLO1616「Registration of Koreans, Chinese, Ryukyuans and Formosans」CLO1617「Koreans Registerd for Repatriation」によってGHQに提出されたから、それらを見てみましょう」



神楽「…あれ?かんじんの登録結果がどこにも無いぜ」

上原都「『Enclosures』と書いてあるから、添付別紙ということで収録しなかったようね。仕方ないから、上記CLO文書を出典にしている「History of the nonmilitary activities of the occupation of Japan 1945-1951」16巻を見るわ」

Nationality Total Registers Number Desiring Repatriation Percentage
Chinese 14,924 2,372 16
Formosans 15,883 12,770 80
Koreans 646,711 513,900 79
Ryukyuans 200,784 141,269 70
Total 878,302 670,311  



綿貫響「ん?引揚援護庁の編纂した「引揚援護の記録」では、朝鮮人総数647,006人、送還希望者514,060人となっているわよ」


神楽「ほんとだ。どうして差があるんだろ?」

白鳥鈴音「ケンチャナヨ!」

上原都「理由はよくわからないのよ。ネタ元が違うのかもしれないんだけど……で、この送還希望登録者の内訳らしいものが、以前扱った『
昭和21年度第2予備金支出要求書朝鮮人送還費』に載っているのよ」

朝鮮人等の送還者数

神楽「正確には513,956人なのか。都道府県だけじゃなくて司法省という区分もあるんだけど、どういうことだろう?」

白鳥鈴音「ひょっとして囚人カナ?」

上原都「上記史料を取りあつかった時点では作者もよく分からなかったから突っ込んでみようとしなかったけど、現在では白鳥さんの言うように当時刑務所は司法省の管理下にあったから、計画送還の期間中に刑期を満了する予定の囚人たちを指すんじゃないかなぁと考えているわ」

綿貫響「そうか。さっき見たSCAPIN729では、朝鮮人受刑者は刑期が満了するまで送還を許されなかったけど、刑期短縮はできたしね」

上原都「で、この登録を基にして計画送還が始まるんだけど、その基本的指令となるSCAPINが3月16日に出されているわ」

SCAPIN822 Repatriation 送還

神楽「長いし細かいなぁ」

上原都「そりゃ、基本的指令だからね。これまで単発的に出ていた送還に関する指示を集大成してあるのよ。附則3の乗船地別割り振りはSCAPIN726をそのまま採用してるし、附則6の持ち帰れる現金についての規定はSCAPIN295の条項だしね」

綿貫響「で、計画送還が4月からスタートするのね」

上原都「ええ。キリがいいので今回はここでオシマイにするわ。次回はそこからはじめましょ」

神楽「じゃ、いつもどおり、今回まで使用した史料の一覧はこっちだな」

白鳥鈴音「今回は時期的にキリのいいところで収まったね」


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